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ラボ長発信No.13 (2003.1.30)

クラスターの成功促進要素とベンチャー

 ベンチャーは、単独で生存するよりも、活力のある地域で共通の技術、補完機能、インフラを持った企業群が生息するところで連携しながらビジネス活動するほうが能率も上がるし今後の飛躍にもつながります。その地域が気候もよく生活・文化水準も高く各種コーディネーション機能により日々学習する地域だとなおさらです。多くの知的人材はそのような地域に集まります。ベンチャー、特に技術系ベンチャーを志す人はクラスターのことをある程度知っている必要があります。

 ハーバード大学のマイケルポーター教授は、「国の競争優位」や「競争戦略論II」で、その必要性を論じています。同時に日本の東京一極集中を批判し、日本も地域産業クラスター育成が急務だと論じています。京都大学の藤田教授は、クルーグマン教授との空間経済学で知的都市の創出を論じています。藤田教授は昨日(2003.1.29)の日経新聞経済教室で、産業集積は「知識外部性を通じて集積効果は増すが、いったん流れが止まると多様性は急速に減少する。流れない水はよどみ腐敗する。」と、東京一極集中の危険性を論じています。

 今日は、皆さん方ラボメンバーかかわりのある地域産業クラスターの成功要素とは何かについて一緒に考えてみましょう。

クラスターについての基礎知識
 地域全体で学習能力を高めるいわゆるイノベイティブな産業集積地域がクラスターと呼ばれ、世界各地で認識され始めている。

 米国COC(Council on Competitiveness)のCluster of Innovation Report,2001 や、OECDのClusterに関する種々のレポート、研究・技術計画学会等各種のイノベーションやアントレプレナーシップ、テクノロジーマネジメント関連の学会報告集、テクノポリス/クラスターをテーマとした出版物等で良く出てくる地域を拾い出してみるとおおよそ下記のようである。

米国 シリコンバレー(マイクロエレクトロニクス、バイオ)、ボストン(医療機器、ソフトウエア)、オースチン(IT)、サンジエゴ(医薬品・バイオ、通信)、ノースカロライナ・リサーチトライアングル(医薬品・バイオ・通信)、ニューヨーク・シリコンアレー(マルチメディアコンテンツ)、サンフランシスコ・ベイエリア(バイオ)、シアトル(バイオ、IT)、ピッツバーグ(医薬品・バイオ、IT,生産技術)、ヒューストン(医療)、コロラド(IT)、アトランタ(IT、金融サービス、輸送・ロジスティック)、ウィチタ(プラスチック、航空・防衛)、ローチェスター(画像処理機器)、等々。
欧州 仏 ソフィア・アンティポリス(IT、通信)、独 ミュンヘン(医薬品・バイオ)、独 ドルトモンド(IT、電子機器)、フィンランド オウル(通信、バイオ)、北欧デンマーク・スエーデンのメディコンバレー(バイオ)等々
アジア 中国 北京中関村(IT)、上海(半導体)、台湾 新竹(電子機器)、等々
日本

札幌バレー(IT、バイオ)、北九州エコタウン(廃棄物・静脈産業)等
文部科学省の12知的クラスター及び6知的クラスター試行地域
12:札幌、仙台、長野・上田、浜松、京都、けいはんな、大阪北部、神戸、広島、高松、福岡、北九州
6:富山・高岡、金沢、岐阜・大垣、名古屋、宇部、徳島

  産業経済省の19産業クラスタープロジェクト
19:北海道、東北―高齢化、東北―循環型社会、関東―5地域活性化、関東―バイオベンチャー、関東―首都圏情報ベンチャー、中部―東海物造り、中部―北陸物造り、中部―名古屋市等ディジタルビット、近畿―バイオ、近畿―物造り、近畿―情報系、近畿―エネルギー・環境、中国―機械産業、中国―循環型産業、四国―テクノロジー、九州―環境・リサイクル、九州―シリコン、沖縄―沖縄型産業

クラスター事例とその成功要素
 米国のクラスター先進事例4地域(シリコンバレー、サンジエゴ、ノースカロライナ・リサーチトライアングル、オースチン)と、欧州のクラスター先進事例4地域(独ミュンヘン、ドルトモンド、仏ソフィア・アンティポリス、フィンランド オウル)を、ラボ長は過去2年間にいろいろな機会に実地調査し、その成功要素を抽出しました。

 それらの成功要素が、これからクラスター育成を目指している日本の各地の事例にどのように当てはまるかを意識して、日本の事例調査を行った。
 日本の事例調査4ヶ所は、経済産業省と文部科学省の両クラスタープロジェクトに選定されている3ヶ所、即ち日本の最初の成功クラスターと言われている札幌バレーのIT産業、長年の伝統がある浜松・豊橋地域のオプトエレクトロニクス産業、地元に目的の産業がほとんど無いところにクラスターを創りだす実験の神戸のバイオ・再生医療産業と、地方で国の焦点が当てられていない小規模な熊本のバイオ/動物実験産業をいろいろな機会に現地調査しました。

調査事例

米国
 シリコンバレー(IT Cluster)
  世界最先端のクラスターでバイオや通信クラスターも活発
 サンジェゴ(Biotechnology/ Pharmaceutical Cluster)
  バイオでは全米3位のクラスターで、通信クラスターも活発
 リサーチ・トライアングル(Pharmaceutical/Biotechnology Cluster)
  通信、化学・繊維・プラスチックのクラスターも活発
 オースチン(IT Cluster)
  全米で急成長のクラスターで2001年にはベスト都市に選定
欧州
 独・ミュンヘン(Biotechnology/ Pharmaceutical Cluster)
  ミュンヘン郊外でジーンバレーと呼ばれている
 独・ドルトモンド(Electronics/Machinery)
  石炭と鉄鋼の重厚長大産業からの転進に成功
 仏・ソフィアアンティポリス((IT /Communication Cluster)
  日本の筑波学研都市に似ているが、最近ベンチャーが活発化
 フィンランド・オウル(IT /Communication Cluster)
  1990年代の大不況時にフィンランド全体のクラスター化のモデル
日本
 札幌(IT クラスター)
  バイオクラスターが第2のクラスターとして成長中
 浜松・豊橋(オプトエレクトロニクス・クラスター形成途上)
  CAD/CAM等ITソフトウエア-クラスターも成長中
 神戸(バイオ/再生医療クラスター形成途上)
  大阪、京都の3都市で京阪神バイオクラスターを形成
 熊本(バイオ/動物実験クラスター形成途上)
  産業経済省のシリコンクラスターに指定されている。

 下記の11分野、16要素が欧米の先進8事例地区から共通要素として抽出された。各地域ごとに特徴があり、必ずしも16の全要素がそれぞれの地域にとり成功要素とはいえない場合や、その重要度が地域によって違っているが、これらの16要素がクラスター形成及びその成長促進要素であると判断しました。

欧米先進事例から抽出したクラスター成功促進要素

1.特定地域
1-1 核地域は30分以内のアクセス
思い立って昼食をともにできる距離
いつでも会える距離
1-2 地域としての危機意識
変革への連携意識
地域の風土・気風(例:浜松のやらまいか精神)
2.特定産業
2-1 地域資産を活かす産業への選択と集中
地域に根付いた特性がないと、企業は都会に逃げていく
ロウテク資産が活かされる例が多い
2-2 初期に核となる企業(Anchor Company)が数社存在する
地元企業、大企業事業部、急成長ベンチャー企業等がある
これが地域での産学連携やスピンオフのスタートとなる
ファーストカストマーとなり次世代ベンチャーを育てる
3.研究開発
3-1 核となる世界レベルの研究開発力がある
世界的人材に若者が引き寄せられる
世界的人材の引き抜き等による誘致
政府等の研究開発資金がつきやすい
政府系ラボや大学、企業の研究開発部門の存在、誘致
研究開発機関の無いところからクラスターは生まれない
3-2 産学官の連携・結合
地元企業、ベンチャー、大学、政府系ラボとの連携
同一敷地、建物内での産学官結合効果は大きい
4.ベンチャー企業
4-1 ベンチャー企業の活力
スピンオフ、レイオフ、M&A等人材のモビリティが高い
技術移転は人材移転が即効性もあり、最も効果的
クラスターとしての関連企業増加の最適手段
「スピンオフ・ツリー」が描けている地域は伸びる
4-2 ベンチャーと大企業、大学等との連携
地域で大企業とベンチャーの連携による地域産業振興
ベンチャーの急成長は大企業との連携から
5.サポート/連携
5-1 金融、経営、技術、製造等サポートインフラ機関が地元にあるベンチャーキャピタル、エンジェル、インキュベーションセンター、税理士、弁護士、会計士、社会労務士、試作品製造、設計、海外ビジネス支援等
5-2 企業、大学、サポート等の連携コーディネーション機関の存在
個人ではなく専門の機関が精力的に取組む必要有り
核となるプロデユーサー、トリガーメーカーが必要
市・県等の地域行政機関の総合的な取り組み
市長や知事の決断や直接参画
世界水準研究人材誘致で、家族の地域満足度まで考慮
6.ビジョナリー
6-1 研究者をひきつける将来の地域ビジョンを描き実現させる人
世界的業績、熱意、人望ある伝道師の存在
あのクラスターにあの人有り、と言われる存在
7.他産業との融合
7-1 その地域の他クラスターとの融合
ITクラスターとバイオクラスターの融合から新産業創出
多重クラスター化による他クラスターとの差別化
8.グローバル展開
8-1 グローバルな取り組みによる市場拡大、イノベーション促進
全世界からの人材、企業、研究所、大学誘致
初期段階での世界展開でグローバルスタンダード化
9.IPO実績
9-1 IPO(株式公開)による信用度アップ、高成長
優秀人材の採用が容易になる
周辺の万年低成長中小企業への刺激
社会的認知によるビジネス効果
10.全国的な認知
10-1 クラスター知名度の向上
大企業、大学、政府系ラボの誘致が容易
優秀人材の逃避から参集への変換
11.生活文化水準
11-1 世界的人材の誘致
技術者や経営者本人が移り住みたくなる文化・気候環境
その家族にとっても買い物、観劇、教育等の魅力が必要

以上の11分野計16項目が、皆さんのいる地域でどうあてはまっているか、自分で評価してみてください。何かが見えてくることでしょう。私は、クラスター内のベンチャーの活力や、スピンオフによる流動化が、クラスター促進の最重要要素だと思います。多くの先進クラスターは「スピンオフ・ツリー」(ラボ長一口メモ参照)が形成されています。

(ウエブのこの文章には、日米欧各4ヶ所、計12ヶ所の成功要素一覧表添付しました。)

<完>


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