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■ Insight 024「関西らしさとは何か」
■ 「『ベンチャー』への視点──志高く革新に挑む」
前田 昇・高知工科大学大学院教授
「イノベーションのジレンマ」という言葉がある。大企業は顧客満足を追いかけるが故に革新できない、というものだ。ふつうマーケティングでは顧客満足を追いかけろと言うが、それをしてもせいぜい「改善」止まり。そもそも顧客はドラスティックな「革新」など求めていない。だから大企業は革新を起こせず、革新を起こしたベンチャーにやられてしまうことが往々にしてある。
そうならないために、大企業としてはベンチャーとの連携が極めて重要になっており、既に先見性のある大企業──ソニーやトヨタはその辺り、実に巧くベンチャーを囲い込んでいる。そして、核になる技術を押さえた上で、自らのネットワークを利用してビジネスを広げるという戦略を採っている。とりわけアメリカではそういう例が多い。
実は僕は以前、GEのジャック・ウェルチを評価していなかった。企業はイノベーションで人類の役に立つべきなのに、自らは革新を起こそうとせず、銀行屋のようM&Aで金儲けしているだけ。そんな人がアメリカ随一の経営者だなんて、冗談じゃないと思っていた。でも数年前、意見を変えた。なぜなら、GEのメディカル部門は、かつてはMRIなどモノづくりで儲けていたが、製造業は儲からないと判り、通信ネットワークを利用して、モノに関連するサービス、メンテナンス契約を売りにすることにした。しかもライバル社のメンテナンスも請け負う形にしたため、タダで、いや契約料までもらいながら敵のデータを入手できる。気がつけば、利益の7割はサービスで稼ぐようになっていた。
これこそ新しいビジネスモデル。いくらシェアが高くても、もうモノづくりだけでは付加価値は稼げない。これからはキーになる技術を押さえた上で、サービスで稼ぐ時代。ソニーもキーデバイスを押さえ、トヨタも部品を押さえた上で、ネットワークを使ってe-ビジネスを展開している。
いわば「リアルとバーチャルの融合」。OSやデバイスというリアルな技術を押さえた上で、バーチャルなe-ビジネスを展開する。e-ビジネスはパソコン、ネットワーク、コンテンツという3つの輪で構成されるが、僕はこれにOSとデバイスを加え、「ファイブサークル」と呼んでいる。リアルとバーチャルを融合させた「ファイブサークル・モデル」こそ、新しいビジネスモデルというわけだ。
そしてこのOSやデバイスというリアルなモノづくりを担うのがハイテクベンチャーであり、ベンチャーにしても大企業と連携することが、実績がものをいう日本市場でのファーストカスタマー(最初の大量購入顧客)の壁を破ることになり、相互にwin-winの関係が成り立つ。
しかもそこでは、日本の強みも発揮できる。既にパソコンの時代は終わり、消費者はもっと小さなPDAやモバイルを求めている。そういうポータブルなものに関しては、日本はアメリカや中国より断然強いからだ。
ところが日本ではここ30〜40年、こうした分野で活躍できそうなハイテクベンチャーはほとんど現れなかった。もちろん、ぴあやドトールコーヒーなど、成功しているサービスベンチャーはいくらでもある。でもハイテクベンチャーとなると、40年前の京セラまで遡らないと見つからない。なぜか──。
理由は2つ。1つは要らなかったから。戦後の日本経済は、アメリカに追いつき追い越すことしか考えていなかった。だからキャッチアップが終わっても、新しいことをする人は稀だったし、やろうとしても出る杭はすぐに打たれた。もう1つの理由は、大企業志向。博士号を持つくらいのエンジニアでないとハイテクベンチャーは無理なのに、日本ではそういう人はみんな大企業へ行った。
だけど最近、状況は変わり始めた。「失われた10年」のおかげで、大企業に嫌気がさしたエリートエンジニアが会社を「スピンオフ」してベンチャーを志すようになり、成功者も出始めた。終身雇用が根強く残る日本では、大企業はベンチャーといっても「社内ベンチャー」。自由もリスクもない環境で、「ベンチャーごっこ」をやってた感があるが、それでも少し変わってきた。社内ベンチャーを志す人にはまず辞めてもらい、代わりに2年間はサポートするといった新しい方法を採用するようになった。こういう「脱藩エンジニア」がもっと増えれば、日本も変わる。これから大いに期待できるというわけだ。
ただ残念なのは、関西の状況だ。メガチップスの進藤晶弘さんのように、大阪から「脱藩」エンジニアは結構出ているのに、後に続くベンチャーがほとんど大阪から出ていない。全部東京の人に真似されている。
要するに大阪人は商売下手。商売は「感度」なのに、それが鈍い。新しいものを次々生み出すDNAを持っているのに、後が続かない。「真似する価値がある」ことを解っていない。これでは20年前のソニーと同じだ。世界初の技術を開発しながら、普及させるのは松下や三洋。ソニーは種だけ生み出して、おいしい実は他の企業に持っていかれる。ビジネスが「点」で終わり、「面」に広がっていなかった。大阪も同じ。
点から面へ、大阪の課題は、京阪神で連携してクラスターをつくることだ。今、日本のクラスターはほとんど東京に集中しているが、僕は最低でも東京、大阪、仙台くらいに日本のメガクラスターをつくるべきだと思う。そして東京はIT、大阪はバイオ、仙台はナノといった具合に特色を出し、それぞれが目標を世界に置いてやっていく。ベンチャーは「世界一」をめざさないと意味がない。だから関西も、自分たちはどういうクラスターで勝とうとしているのか、敵は世界のどこにいるのか、しっかり「選択と集中」をしてほしい。
東大阪の優秀な中小企業も、ものづくりだけに拘っていてはダメだ。世界シェア1位なんていっても、上場企業はごく僅か。非上場のままでは優秀な人材は集まらず、一代で終わってしまう。それでいいのか。大企業はぬるま湯に浸かっているというが、中小企業も同じ。みんなで日本をダメにしている。
上場が必ずしもいいわけではないが、本気で上場をめざせば、確かにしんどい。睡眠時間を削られ、ゴルフもできず、失敗することもある。でも、それがベンチャー。リスクを負って夢を追いかけ、歯を食いしばり命を賭けて挑戦する。そんな「志」こそ大切だ。幕末の志士・坂本龍馬のように、志を持ち、世界の動きを見据え、自分が何をやるべきかを考える力、発想する力、発信する力を身につけるため、今一度しんどさに挑む気概を持ちたい、と思う。
まえだ のぼる 高知工科大学大学院 起業家コース教授;学術博士
1944年大阪府堺市生まれ。高崎経済大学卒、慶應義塾大学大学院修士課程、高知工科大学大学院博士課程修了。日本IBM勤務ののちソニー入社。マーケティング戦略本部長、米国ソニー総合企画担当バイスプレジデント、欧州ソニー戦略担当ディレクターなどを歴任。99年より現職。文部科学省科学技術政策研究所客員研究官、内閣府総合科学技術会議専門委員、名古屋大学非常勤講師、大阪産業創造館技術ベンチャー経営ラボ長を兼務。著書『スピンオフ革命』『自律結合国際戦略』など。
■資料室 024:「ハイテクベンチャー」の基礎知識
http://www.kepco.co.jp/insight/content/column/column024.html
■Salon***************************************************
_/_/_/ 読書室 _/_/_/
*「ベンチャー」を読み解く11冊***
『スピンオフ革命』
前田昇 東洋経済新報社 2002年4月
『自律結合国際戦略』
前田昇 同友館 1999年11月
『怒りのブレイクスルー』
中村修二 集英社 2001年4月
『イノベーションのジレンマ』
クレイトン・クリステンセン 翔泳社 2000年1月
『イノベーションとベンチャー企業』
野中郁次郎編 八千代出版 2002年2月
『こうすれば日本はよくなる!』
松本大 ダイヤモンド社 2002年11月
『ジャパニーズ・ドリーマーズ─自己イノベーションのすすめ』
米倉誠一郎 PHP研究所 2002年9月
『アントルプレナー創造―最新ベンチャー経営入門』
高木晴夫/奥村昭博/國領二郎ほか 生産性出版 2001年1月
『儲けの戦略─新規事業の計画・評価・検証』
大江建/北原康富 東洋経済新報社 2002年10月
『構想力のための11章―新しい発想を生み出す方法』
水野博之 三五館 2001年5月
『優秀なオタク社員の上手な使い方』
ジョン・M・イワンセビッチ/トーマス・N・デューニング
ダイヤモンド社 2002年11月
「資料室024:『ハイテクベンチャー』の基礎知識」
http://www.kepco.co.jp/insight/content/column/column024.html
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