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ラボ長発信No.6 (2002.6.22)
脱藩セミナーから学ぶサービスとの融合
6月3日(月)大阪産業創造館でのメガチップス進藤会長を囲んでの起業創出脱藩セミナーの余韻がまだ残っています。それほど意義深いセミナーでした。会場で多くのラボメンバーの方々に会え良かったです。参考までに進藤会長、神戸大学加護野教授と私のパワーポイント資料は、そのまますべて技術ベンチャー経営ラボのウエブに載せてあります。
私は、ソニー、ホンダ、京セラの創業者に次ぐ日本産業変革の旗手である経営者として、ヤマト運輸宅急便の小倉昌男氏、セブンイレブンの鈴木敏文氏を以前からあげていたが、いよいよ待望の3人目の経営者が現れたといえる。日本で初めて無茶だといわれたファブレスの半導体設計製造会社を設立し8年で上場し、直後にスパッと若手に会社を任せ、自ら異分野のソフト産業で第2創業し、それを又3年で上場した。この10年、日本の産学官あげての重要課題であるハイテクベンチャーの創始者といえる。そして現在進藤氏を手本に多くのハイテク・スピンオフベンチャーが生まれ始めている。
進藤会長のお話は、高知工科大学大学院起業家コースでのゲスト講師で昨年と一昨年の2回聴きましたが、今回のは特に格別の内容でした。
その理由として、私は前2回と比べて大きく3つの違いがあったと思います。
- 地元大阪での技術系起業や第2創業を目指す人達への講演会であった。
- セミナーのキャッチフレーズが敬愛する坂本竜馬を冠した「脱藩エンジニアが日本を救う」「平成の竜馬であり、第2第3のソニー、ホンダ、京セラであるメガチップス進藤会長に続け」であった。もうひとつは、これが一番大きな理由であると思うが、
- メガチップスのLSIというハードに加えて、メガフュージョンのネットワークソフトが加わり、進藤会長自ら言われていたように、ハードとソフト、リアルとバーチャルの融合によるE-ビジネスのプラットフォームコンセプトを創出し、ビジネスの視野が開けた。
Q&Aセッションで私がコメントしたように、これはソニーのキイデバイス・OS・マルチメディア端末・ネットワーク・コンテンツを結ぶファイブサークルモデルと概念は同じである。ソニーの出井会長とメガチップスの進藤会長は、今や同じ概念を持っている。6月21日の日経新聞「たくましい企業トヨタ−3」の記事で紹介されているようにトヨタも同じ発想である。私はこのソニーとトヨタの相似性を1999年に出版した「自律結合国際戦略」で、既に述べている。今回の私のプレゼンテーションで示したように、製造業がハードにITネットワークをかぶせて、第4次産業を創出している。GEやIBMも同じであり、両社は今やハードに絡めたサービスの利益がハードの利益を越えている。6月20日の日経新聞の「会社研究ージェネラルエレクトリック」に棒グラフで電力システム、医療システム、航空機エンジンの長期事業の大きな利益が示されているが、それら利益の約80%はハードに付帯するITを利用した保守・サービス事業からである。
これからの技術ベンチャーは、ハードを開発して売るだけでなく、そのハード技術に係わるサービスを関連付け取り込むことを、初期の段階から考えていく必要がある。
以下に、少し長文になりますが、拙著「自律結合国際戦略」から引用してみます。
製造業のサービス事業取り込み
この数年間で物造りが本業である製造業が変わってきている。製造業がサービス業に傾斜しつつある。しかも先端を行く高成長、高収益製造業にこの傾向が強い。「サービスでも稼ぐ」がそのキイワードである。
GEのジャック・ウエルチ会長は「GEは製品の販売に止まらず、サービスを提供するトータル・サービス・カンパニーを目指す」と宣言し、IBMのルイス・ガースナー会長は「IBMとはサービスである。」と昔のIBMの標語を再び前面に出しつつある。ソニーの出井社長はディジタル・ディストリビューション・サービスを戦略ドメインに設定しディジタル・ネットワーク・ソリューション・カンパニーを社内分社化し「ソニーはエンターテイメント・サービス業を目指す」と語っている。
何かが大きく変わってきている。ABB,ゼロックスでも同じような動きが起こっている。GEはポートフォリオ戦略で利益の上がらないシェアー3位以下の主に製造業の事業を売却し、シェアー1、2位のサービス、金融事業を取り込んできたので、GE全体として物による収入、利益が減るのは当然であるが、GEの一部門であるメディカルや航空機エンジンといった製造業の領域ででも、サービス収益が激増し、今やこの二つの事業部門では収入の半分近くは物よりも、物にまつわるサービスから上がっている。GEのこの数年の高成長、高収益の秘密は、ポートフォリオ戦略やシックスシグマ運動だけでなくこんな所にも隠されている。
未来学者アルビン・トフラーが1970年に「未来への衝撃」1980年に「第三の波」で予測した情報化社会の到来により、工業社会はそのピークを過ぎ去った。第一の波である農耕社会から第二の波である工業社会に移行した時と同じように、第二次産業から第三次産業へのあらゆる事象のシフトが始まっている。人口、GDP,才能、価値観、文化、技術革新。
フランスのビジネススクールINSEADの教授は2025年には先進国の第二次産業の人口構成比は農業人口に近い5%位にまで落ちていると予想している。先進製造業企業が第二次産業から第三次産業へと其の領域を移動するのは当然である。量産化、効率化が極限まで来た今日、ハード(物)の値段は時間とともに下がり、メーカー機能だけでは成長は難しい。かといってメーカーが勝手の知らないサービス領域でうまく商売が出来るはずも無い。自分達が得意としている「物」に関連付けた戦略性のあるサービスが生き残る道である。
1)GEメディカルの事例:
CTスキャナー(コンピュータ断層撮影装置)やMRI(核磁気共鳴断層撮影装置)等の医療用画像診断装置の世界トップシェアーを誇るGEメディカルの1997年の年間売り上げ5、400億円の40%はサービス収入であり、GEメディカル全体の売上高営業利益率は17%である。但しサービス収入だけでの営業利益率は31%と倍近い効率である。一台数億円もする機械もあり、また生命に関わる情報を扱っていることでもあり、故障や画像の乱れのトラブルは医者にとっては大問題であり、GEに取っても信用や裁判問題にもなりうる。
そこで考え出されたのが病院の画像診断装置とGEのコンピュータセンターをオンラインで結んだ「遠隔メインテナンスサービス」制度である。現在世界中で一万台以上の画像診断装置が24時間オンラインの監視下にあり、画像乱れ等のトラブルが出ても15分以内での解決率は50%に近いと言う。またコンピュータセンターはアメリカ以外にパリ、東京、シンガポールにあり、どこからでも24時間どこかのセンターにつなぐことが可能である。このオンラインメインテナンスサービス以外にもオフラインの費用の安いサービスもあり、他社製品のサービスも取り扱っている。
また保守サービスの契約期間も5年から30年まであり、これにより顧客はコストを固定出来るしGEは安定した収入を確保出来、今後の努力で製品の信頼性が増せば増すほど故障が減り、経費が減っても収入は一定であり利益が上がる。顧客にもメーカーにも両得のシステムである。このほかCS衛星放送の24時間番組を持ち画像診断装置の取り扱い方を含めた医療情報番組を経営し放送している。
GEメディカルは、もはや良い意味でメーカーの領域を脱して顧客へのサービス活動に徹している。この様なサービス活動で利益と顧客情報を得ながら顧客がライバル企業に流れないように囲い込んでいくことは、物の販売の安定化にもつながり、GEメディカルにとって一石二鳥である。
この様な柔軟なビジネス活動を可能にしているGEメディカルの経営システム日本の製造業メーカーと比べてみれば、今の日本のビジネスモデルに欠けているものが見えてくるはずである。現場の創意をどこまでくみ上げ実現させるか、と言うよりくみ上げると言う発想がもう古いのかもしれない。現場がやりたい事を、どれだけ任せてやらせるか。それをどう数字で見守りながら管理するか。メーカーのマネージメントに医療情報のCS放送まで許可すると言うそれだけ柔らかい頭が有るか。新ビジネスモデルは製造とサービスが容易に結合出来るものでなければならないようだ。
2)GE航空機エンジンの事例:
GEの最大規模の事業部門である航空機エンジン部門も、先のメディカル部門同様航空機エンジンの遠隔モニタリングサービスで稼いでいる。メディカルでもやっていたように競争会社であるプラット&ホイトニーやロールスロイスの長期メインテナンスサービスを引き受けた。さらにエンジンのメインテナンスとスペアパーツの製造・交換をバンドリングし、スペアパーツを供給する事業にまで進出した。ついにはプラット&ホイットニーを抜きこの業界一位の座をしとめた。今やGE航空機エンジン部門の収入の50%以上はサービスからの収入である。
GEではジャック・ウエルチ会長が「ベストプラクティス」と言って他部門や他社の成功事例に習え、と言うことを長年強力に推し進めておりNIH(Not
Invented Here)を排除する社風を作っている。メディカル、航空機エンジンだけではなく、GEの発電機タービンにもこのオンライン遠隔モニタリングは導入され、メインテナンスだけではなく今後の改良用データ収集等多方面の貢献をしている。
3)IBMの事例:
1994年5月IBMは世界的な大組織改革を発表した。従来は産業別の営業やサポート体制を各国ごとの管理下の元行われ、欧州やアジア地域のその産業サポート担当者に間接的にレポートしていた。イタリアやイギリス、日本、カナダ等の各国IBM社長が国際組織の要であった。
マッキンゼー、アメックス、RJRナビスコの経営を経験して来たIBM創業以来初めての外部から来たルイス・ガースナー会長は、じり貧のIBM立て直し策を検討した結果、前任CEOが軌道をひいた大型、小型・PC,ソフト・サービスという分社化とは全く反対の大型、小型・PC、ソフト・サービスのすべての融合・統合による顧客サービスこそがIBMが差別化出来る強みであるとした。ハード・ソフト・サービス・通信のすべてを握っているコンピューター会社はIBM一社であり「IBMは顧客へのベストサービスを提供する」というIBM本来の哲学に戻る方法であるとした。
日本IBM等子会社は既に米国本社前任CEOの方針の元に社内分社化を世界に先駆けて進めており、大きな軌道修正となった。
それに先駆け赤字脱却のためIBMは世界中で大幅なリストラを行い全世界の従業員を40万人から20数万人と半数近くに削減していた。それでも巨大な組織でありその官僚機構がハードとソフトの綜合化を迅速なサービス提供に結び付けるには無理があった。
そこで打ち出されたのが、国の概念を世界中から取り外し、あたかも地球が一つの国であるような組識形態「インダストリアル・バーティカル」を打ち出したのである。「地球市場」を14のインダストリー(産業)に分け、それぞれの産業分野であたかも一つの企業であるような組識を形成した。地球規模の社内分社である。イタリアの流通産業担当のセールスや技術スペシャリストのマネジャーはイタリアのIBM社長には直接管理されず直接欧州の流通担当管理者に報告し、その管理者はニューヨークの世界の流通産業本部にレポートし指示を受けたり評価されたりする。日本の石油化学担当の営業やエンジニアも同様でアジアパシフィック本部の石油化学担当管理者がボスであり、そこからニューヨークの石油化学本部につながっている。
流通産業、石油化学、金融、製造、サービス、政府公共団体、マスコミ、通信等の14の産業ごとにこの様な仕組みが構築され、通信産業の本部はニューヨークではなく通信機紀インフラの強い欧州に設置された。
各国IBMの社長にとっては大幅な権限削除であり、間接的にその国の市場をどう育成するかと言うモラールの下がる組識ではあるが、効果も大きい。まず産業ごとに異なる顧客の要請におおじたソフト・ハード開発の投資を産業責任者の独自の見解で迅速に進められる。産業ごとのノウハウが従来以上に製品やサービスに蓄積され易くなった。またグローバルな顧客に対するサポートが従来の国ごと管理の壁を意識しないで実現出来る。これはガースナー会長が日本を含む世界中のグローバル企業を回って意見を拝聴したときの最大の課題であったと言われている。
この様に特定の産業に特化し、世界をボーダレスに管理する体制は、人・金・物の迅速な世界最適配置を可能とし、グローバル・カスタマー・サティスファクション(顧客満足)を通したグローバル価値創造を可能とする体制であるといえる。この大胆な世界組識実験は数年を経てIBMが「Eビジネス」等のコンセプトでネットワーク社会でのサービス提供企業として躍進しはじめている大きな布石でもあったと思われる。コンパックがDECを買収してからハード寄りの布陣で先が見えないのと大きな違いである。
IBMのハードウエアーの販売による収入は50%以下であり、ソフトウエアーの販売やコンサルテーションやアウトソーシング、メインテナンス等のサービス収入が機器の販売を上回っている。サービスに限ってでは25%くらいであるが、将来はネットワークを中心としたサービス業であるe-ビジネス等のソリューションビジネスが益々拡大すると予想される。
其のいい例が17の大手銀行が加盟し全米銀行口座数の75%を押さえているインターネット・オンラインバンキングシステムの構築と運用である。この運用が味噌であり、預金者がネットで送金等を行うと、其の手数料がIBMの出資している運用会社のもとに日銭として永久に入ってくる仕組みになっている。この様なビジネスを「クリックビジネス」と呼びプラットフォームインフラををつくってしまえば後はユーザーが家庭用端末をクリックするたびにクリックチャージがその場を創った運用者にチャリンチャリンと入ってくる。パソコンでウインテルがOSとMPUを押さえたのと同じ又はそれ以上の収益効果がある。
GEやIBMの事例で見てきたように製造業で養ってきた強みの本質をうまく活用すれば、其の周辺でサービス業でも競争会社が入り込めないような業務を展開出来、高収益をもたらすことが出来る。ただこの様な意図や構想力をどれだけの製造業経営者が持っているか、持とうと言う意識があるのか、現場のスタッフがどれだけ上に持ち上げることが出来るか、組織の中や企業カルチャーの中にどれだけ発想の基盤を持てるか等々、日本企業の現在のビジネスモデルでは大変難しそうである。
日本製造業再生の鍵はここにある可能性が強い。ソニーのディジタル・ディストリビューション・サービスが成功し、日本の製造業に其の模範を示し得るかどうかは興味深い。VHSビデオ開発で一世を風靡した日本ビクターも利益の半分はサービス業で稼ぐ計画を練っていて、物流とソフト事業に力を入れている。成功するかどうかはどれだけ現在のビジネスの強みを生かせるかがキイである。

出展:週間ダイヤモンド 1998.10.31
(完)
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